『同性愛は「病気」なの?』に出てくる同性愛の歴史と診断法がいろんな意味でスゴい

どもです。今日は本の紹介ですね。この記事で読みたい!と言っていた牧村朝子さんの『同性愛は「病気」なの?僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル』ですね。

IMGP7823かわいい。でも妻帯者だからね、人のものを欲しがるのは良くない。

いつものごとく全部を書くわけにはいかないので、気になったところと感想を書いています。ネタばれ注意です。

リアル版「マリみて」の世界inレソト

「なぜ『異性愛診断テスト』はないのに、『同性愛診断テスト』は必要とされ続けるんだろう?」

はじめに、の中でこのような言葉が出て来ます。確かに異性愛診断テストなんか見たことないですし仮にそういったテストがあったとして、それを受けて「ねぇ見て!俺異性愛者みたいだよ!」なんて報告し合う姿なんて想像できないのです。

この本は「同性愛者」というレッテルが生まれるまでの経緯とその言葉に翻弄されてきた人々の歴史を紐解いていくもの。国内外の「同性愛」の歴史について非常に細かく書かれています。新書とは思えないような情報量ですね。

『同性愛』という概念が存在しないほどそれが普通に存在していたエジプトのシワ・オアシスの話と、レソトの女学生同士の性教育のマミーベイビーの話には驚きました。

マミーベイビーは日本でいう先輩後輩みたいな感じらしいのですが、未婚の女子学生が他に特定の相手を選び、それぞれ「マミー」「ベイビー」と呼び合って過ごすというもの。その関係は恋愛関係にも似ており、キス、ハグ、時に性行為にも及ぶんだとか。レソトは母親が娘に性の話をすることがタブー視されているので性教育の目的があったようです。こうした関係は女性が結婚した後も続くんだそうで。調べてみたときに英字の資料が出て来ました。

Lesotho's economy is based on migrant male labor which leaves the women dependent on male earnings or subsistence from the land, and also creates unstable marital relations.

"Mummies and babies" and friends and lovers in Lesotho.より引用

レソトの経済は男性移民労働者によって支えられており彼らは国を離れて生計を立てるため出稼ぎに行くため、婚姻関係が不安定になる。といったところでしょうか。四方八方を南アフリカに囲まれている国なので、実質的には南アの経済支配下にありますからね。男性が出稼ぎに行くと婚姻関係が成り立たず、結果としてマミーベイビーの関係が続くのも頷けます。

…っていうかコレ、あれだよね。マリア様がみてるの世界だよね。スールみたいな、「お姉さま、ごきげんよう」みたいなやつ。まぁ僕はマミーベイビーより後にマリみての世界観を知ったので、マリみてってマミーベイビーじゃんって思ったんですがね。どうでもいいね。

IMGP0831昼間っから酒を飲むレソトのお姉さま方、ごきげんよう。レソトは良いところです。

日本で同性愛者=変態のレッテルができた訳

同性愛を巡って多くの人々が尽力するエピソードがつづられているのですが、クラフト=エビングの話が僕は好きでした。好きというか面白かった。

「同性愛」をあくまでもアカデミックに語りたいクラフト=エビングはゲスな奴らに論文を読まれるのを恐れ、わざと難しい用語を使いまくり敢えてラテン語で論文を書きます。それが『プシコパシア・セクスアリス』。しかしこの『プシコパシア・セクスアリス』は学術書としての異例の大ヒット作となり、日本でも1913年に日本語版が出版されます。その日本語版のタイトルが『変態性欲心理』。エビング先生の完全なしくじりです。この本が大正時代の「変態ブーム」を生み出し、日本において同性愛者が「変態」の枠組みで語られるきっかけになってしまったのです。なんてこった。「変態」の俗語が使われるようになったのもこのころからで、マゾヒズムやサディズムといったいわゆるSMもエビング先生によるものなんだそうな。

「同性愛は脳に起因する生まれつきのことだから罰するべきじゃないよ」と言いたかったエビング先生。日本では大正時代の『神秘なる同性愛』という本の中で「同性愛は脳の異常による精神病的感情」「刑事問題を惹起することも多い」なんて書かれてしまうんですね。易しく書いていればこうはならなかっただろうに、しくじりすぎだぜエビング先生。

マジでか!?こんな同性愛診断法

この本の中には26の同性愛診断法が出て来ます。単語テストにお尻チェック。なんだこれってのがたくさん出て来ます。特に米軍式の同性愛診断法がふざけているとしか思えない

・男性を脱がせたら同性愛者だけ恥ずかしがるのでは説

・男性同士でオナニーについて話し合わせたら同性愛者だけ恥ずかしがるのでは説

そんなあほな。恥ずかしがったが故に同性愛者とみなされるって何だよ。

・口の中に”同性愛者発見器”を入れれば分かるのでは説

実はみなさんも一度は病院で口に入れられたことがあるであろうこの”同性愛者発見器”。「はい、あーん」って言われてアイスの棒を入れられ、「をえっ」っとなるアレです。「咽頭反応」を確認するためのものですね。

「同性愛者は普段からフェラチオしまくっているはずだから、喉の奥に物が入ってくることに慣れすぎて、咽頭反応が起こらなくなっているはずだ!」

なるほど…っておい!うそだろ。下品なツッコミがたくさん頭に浮かんできますがここには書けません。

・同性愛者はおしっこで見分けられるのでは説

尿のホルモン値を見るわけですね。男性同性愛者は男性ホルモンが足りてない!と。そこで「お薬」として男性ホルモン剤を出すわけですが、牧村さんも書いている通り、下半身が元気になっただけで終わったでしょうね。

 

そして他にはいつぞやの記事で描いたロールシャッハテスト。僕も受けさせられました。あとは日本の公務員試験でも未だに使われているミネソタ多面人格目録。確かこれも受けさせられたような気がする…。機械いじるの好きですか?自分は女ではないと感じますか?みたいなドストレート質問集。ちなみに、機械いじるの好きです。昔ゲームを分解してまた組み立てるというバンダイや任天堂に怒られそうな遊び方をしていました。ゲームしろよ。

「真理がわれらを自由にする」

あとがきに出てくるこちらのギリシア語の言葉

Η ΑΛΗΘΕΙΑ ΕΛΕΥΘΕΡΩΣΕΙ ΥΜΑΣ

国立国会図書館カウンターの上部に記されている言葉だそうです。あとがきには日本語訳が書いていなかったので調べてみました。

「真理がわれらを自由にする」

という意味だそうですね。正しくは「真理はあなた方を自由にする」で、新約聖書「ヨハネによる福音書」8章32節からの引用なんだそうです。前後の意味を考えたらなんだか…という記事も見かけましたが、聖書の話にまつわるまでの深い意味はなく「本を読んで知識をつけようね」的な意味だろうとは思いますが。僕が言うとほんとに浅く聞こえてしまうけども。

この銘文は、「建設省が日本文との釣り合い及び装飾上の観点から聖書の原典どおりの言葉で刻んだという伝聞」が残っているのみです(稲村徹元、高木浩子:「真理がわれらを自由にする」文献考 p4 『参考書誌研究』35 1989)。

レファレンス共同データベースより引用

 

僕は歴史を学ぶことの意義は「同じ過ちを繰り返さないため」だと思っています。この本の中には同性愛という言葉に翻弄され、戦い続けた多くの人々のドラマが描かれています。彼らの辿ったその道は現代まで続いている、これが歴史というものです。

同性愛者という言葉にこれほどまでに深い歴史やエピソードがあったなんて、驚きです。ここには書ききれないたくさんの興味深い話が凝縮された本。1000円もしない新書でこの情報量と作りこまれ方は素晴らしくお得に感じました。読み応え抜群の本です。

 

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