人は忘れるから生きていられるでやんす―都合の良いように記憶を引っ張り出す脳の話

人は忘れるから生きていられるでやんす―都合の良いように記憶を引っ張り出す脳の話

どもです。

たまには記憶の定着も兼ねて、独学している行動分析学や心理学とイイ!と思ったものをかけ合わせた記事を書いていこうと思います。

今回はパワプロクンポケットの名言と記憶の話です。趣味丸出しの記事ということですね。

弱い人間らしく生きるための工夫

人がそれまでに経験した出来事に関する記憶を自伝的記憶といい、この自伝的記憶には再構成的想起という性質があります。

わかりやすく言うと、例えばつらい出来事があっても時が経てば「あの事があったから今忍耐力がついているし、体力もついたんだな。」とか「あの時はつらかったけど、その分つらい立場にいる人のことも考えられるようになったな」と思えるってことですね。

さらに人は「望ましい自己像」の一貫性を維持するためにも、時には非常に巧みな記憶の再構成を行うと言います。

例えば過去の自分を実際以上に過小評価したり、失敗経験を実際よりも過去の出来事だということにして「現在まで成長し続けている」と確認することができるんですね。昔は自分はバカだったけど、今日まで真面目に勉強したからこんなに成長したのだ、という具合に。

そうやって保てる自尊心もある。巧みな再構成というとよく聞こえるけど、言ってしまえば都合のいい勘違いです。でもそれは恥ずかしいことではなく、人間として普通の機能なわけです。

そして自伝的記憶を想起する際、不快な感情よりも快い感情を想起しやすい。このことを感情の消失バイアスといいますが、これは日本人だろうがブラジル人だろうがインド人だろうが文化差がなく一般的な人々の傾向なんだそうですね。これはつらい体験に対処したり、主観的幸福感を維持するのに大いに役立つ機能だといえます。

ここで思い出すのがパワプロクンポケット8の湯田君の名言です。

…人は忘れるから、生きていられるんでやんすよ。

苦しいことや悲しいことを全部覚えてたんじゃ、つらくて仕方ないでやんすよ。

 

名言だらけのパワポケの中でも最も有名な名言なのでは?というこの名言ですね。この後今夜はオイラがおごるからと焼肉に誘ってくれる湯田君。なんて良いメガネなんでしょう。

この場合は色々あって彼女に記憶を消されてしまう主人公へのセリフなので彼の身に起こった記憶の喪失はこれとは異なりますが、「悲しいことを忘れるから生きていける」のはまさに感情の消失バイアスのことです。

いい加減な脳と可塑性

これは見方を変えれば脳がとってもいい加減な器官とも言えますよね。

過去に起こった出来事や抱いた感情を正確に思い出すのではなく、そこに脚色を加えたり悪い部分は忘れたりして、それを自分が幸福を感じるのに都合がいいように思い出すわけです。そういった意味では、いい加減だけど、本当によくできています。

脳がいい加減でいえば、少しニュアンスは違いますが『サイコパス』の著者中野先生も「脳はしょっちゅうエラーを起こす、バグだらけの不完全な臓器」であり「しかも、とりわけエラーを起こしやすいのが、脳科学者たちが自慢する「高次脳機能」、意識や思考、 意思決定などを司る、前頭前野を中心とした部位」としています。

ただしその一方で脳が発達しているおかげで「人間は認知や感情などを自分でデザインでき、それによって生き方を変えていける動物でもある」(文藝春秋・編. 文藝春秋SPECIAL 2017年夏号[雑誌] (Kindle Location 1123). 文藝春秋. Kindle Edition)と。

つまり可塑性がある、ということですね。

僕の好きな脳科学者は池谷裕二先生という方で、脳の可塑性について研究をしています。僕が池谷先生を好きになったのは文章が面白いからもそうですが、このセリフですね。

中村   人間の生き方は遺伝子だけで決まるわけではなくて、脳は遺伝子に書かれ ている決め事から自由になれるのか。

池谷   専門用語で「可塑性」と言いまして、これが私の研究テーマの枢軸です。「可塑性」をライフワークに選んだ理由は、まさにそこにあります。「遺伝子なんてクソくらえ」とは言いませんが、可塑性は、遺伝子という呪縛からどれだけ離れ た能力を発揮できるかって意味なのです。これってロマンがあると思いませんか?

池谷裕二; 中村うさぎ. 脳はこんなに悩ましい (Kindle Locations 2670-2674).

 

多くのことは遺伝子で決まることが明らかになっている一方で、脳を使うことで遺伝子で定められたことから自由になれる。いやーシビれますね。ロマンです。

そしてこの本、とっても面白いのでおススメです。

 

脳はこんなに悩ましい (新潮文庫)
池谷 裕二 中村 うさぎ
新潮社 (2015-10-28)
売り上げランキング: 18,119

 

まとめ

・辛いことがあっても人は時と場合で記憶を上手に(都合のいいように)引っ張り出して、前向きになる材料にすることができる。

・湯田君はイイやつ。

 

参考資料

自伝的記憶研究の理論と方法(2004)

情動的な自伝的記憶の想起と再構成についての検討(2016)

参考サイト

心理学用語集 サイコタム 自伝的記憶

参考書籍

脳はこんなに悩ましい(池谷裕二・中村うさぎ)

文藝春秋SPECIAL 2017年夏号[雑誌]