どもです。シカゴ大学のリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことで話題になっている行動経済学。独学で関連本を10冊以上読んできた素人が分かりやすく解説してみたいと思います。
登場人物
こうしろう
経営が傾きまくりなインド料理屋の給仕。
給料が現物支給になりつつあることに不満を抱いている。最終的に数万円の給料がもらえないことを彼はまだ知らない。行動経済学の勉強中。
ゴビンダさん
経営が傾きまくりなインド料理屋のコック。
給料がなかなか振り込まれないので辞めたいと思っているが日本にいたい。最終的にまた広島に流れ着くことを彼はまだ知らない。勝手に使ってごめんね!
以上がノンフィクションです
以下フィクション
うるさいよ!読まれないより読まれた方が良いでしょう。
ということでゴビンダさん、そういう趣旨なのでちょっと僕と一緒に行動経済学の勉強しましょう。
行動経済学とは?
ざっくり言ってしまうと心理学の考え方を取り入れた経済学のことです。
従来の経済学では人間はものすごく論理的に行動する前提で考えられています。
でも本当にそうなのか?例えばゴビンダさんが急に10万円誰かにもらったとしますよね
でも毎月貰う給料の中の10万をすぐにiPhoneに使いますか?
だけど貯金があるからそのお金でiPhoneを買ってもすぐにめちゃくちゃ困るわけではないですよね?
うーん、そうですネ。でもやっぱり買わないデス。せっかくお客が来ないレストランでヒマに押しつぶされそうになりながら働いて得たお金なのデス。簡単に散財はできません。
従来の経済学ならゴビンダさんが急にもらった10万円もいつものお給料の中の10万円も全く同じ価値なはずです。
でもゴビンダさんにとってはその2つの10万円の価値は全く同じではないことになります。
そうです、人間には感情があるから必ずしも合理的な行動をするわけじゃない。従来の経済学の中に出てくる人間はエコン(ECON・イーコン)と呼ばれます。ホモエコノミクスとも呼ばれますね。
そんな人は本当はいない。エコンだったら自分が損をする寄付はしないし、賭け事をするときも期待値を計算してそれ以上のお金もかけない。
本当に合理的なら好きでもないものをなんとなく買ってしまったり、お金を無駄遣いしたりするはずがないんです。でもそういう人はたくさんいますよね。これはエコンとは逆の「ヒューマン」つまり僕たちのことです。
だけどその「非合理」は全くのランダムで起こっているわけではなくて法則があります。その法則を探すのが行動経済学です。
その答えがバイアスの中にあります。そんなバイアスについて見ていきましょう!
後知恵バイアス
ダイジョブみたい。今日はお客さんいっぱい来るネ お昼すぎたら
...
翌日
そうか、今日は寒いし近くのレストランが休みだから流れてきたんだな
ワタシたくさんお客さん来ると思ってマシタ。だって今日は寒いし隣のレストラン休みです
いえ、私は本当に分かっていたのデス!だからこうやってタンドールも温めていたし
ゴビンダさんはウソをついているわけではありません。今日は寒いし隣のレストランが休みであることもあらかじめ知っていた。だからお客さんが来たという結果を見て「寒いこともレストランが休みであることも知っていた自分は、今日はお客さんが来ることを分かっていたはずだ」と思ってしまうのです。
このゴビンダさんのように結果をもってあたかもそれを予想していたかのように感じてしまうことを後知恵バイアスといいます。名前は出しませんが、スポーツニュースなんかで結果が分かった後にあたかも初めから結果が見えていたかのように解説する解説者なんかはまさにこれですよね。
代表性ヒューリスティック
リンダ問題
リンダという女性がいます。
彼女は独身で、とても頭がよくはっきりとものを言う性格です。
大学では哲学を専攻していて、人種差別や民族差別などの社会問題に深くかかわっていました。
リンダの職業は次のどちらの可能性が高いでしょうか?
A)銀行員の窓口係
B)女性解放運動を行っている銀行の窓口係
リンダさんはどちらに当てはまる可能性が高いと思いますか?
これはBでデス。リンダさんは大学で人種差別や民族差別などの社会問題に深くかかわっていたんだし独身だし、フェミニズム活動もやってるに違いない。
だって母数を考えたら銀行の窓口で働いている人数の方が銀行の窓口で働いていてかつフェミニズム運動にかかわっている人数より多いはずじゃないですか
でも与えられた情報に惑わされてしまっタ。哲学専攻であっても、率直にものを言う人でもフェミニズム運動にかかわっているとは限らないデスネ。
だから絶対数の多いAに当てはまる可能性の方が高いハズ
ある特徴を過大評価してしまう思考の癖を、行動経済学で代表性ヒューリスティック(検索容易性)といいます。
細かい情報があると輪郭がはっきりような気がするけど、それに該当する可能性が高くなるわけではありませんね。
今はニートよ。だからC)リンダさんはド下ネタ大好きクソニートである。が正解よ。
利用可能性ヒューリスティック
ところで私は行動経済学の問題に出てくる女なだけあってちゃんと行動経済学の知識もあるから教えてあげる
さっきのリンダ問題は代表性ヒューリスティックの問題だけど、今度は利用可能性ヒューリスティックの話をするわね
【問題】
次の英単語のうち多いのはどちらか?
A)7文字の単語で末尾がingで終わるもの
B)7文字の単語で6番目がnのもの
んんーAですかね、pettingとかkissingとかすぐに思い浮かぶのがたくさんアリマス
まずAにあたる7文字の単語で末尾がingの単語はすべてBに入るでしょう
一方でmachineみたいにBには当てはまるけどAには当てはまらないものがある。
そうかーAの方が思いつきやすいけど、数的にはBの方が多いハズですね。
取り出しやすい記憶情報を、優先的に頼って判断してしまう。記憶に残っているものほど、頻度や確立を高く見積もる傾向があるわね。
なるほどー理由を考えているようで実は理由がないようなことですかね。思い出しやすいだけで。
そうね、なんとなくいつものお店、なんとなくいつもの牛乳を買うけど、実はそれは思い出しやすいから。本当に味がいいからとか、明確な理由で選んでいるわけではない場合があるわね。
は!だからインドカレーが食べたいと思ってもうちの店が選択肢として身近になければなんとなく入ろうとしないんですね!
なんと!やっぱり宣伝しなきゃいけないですネ!ビラをまかなけれバ!!
タッタッタッタ!
さっきの私の問題で出てきた代表性ヒューリスティックのことも含めてこういったバイアスのことを連言錯誤というの
連言錯誤は情報が多ければ多いほど具体的なイメージへの納得感が高まって、イメージしたものの発生率を高く見積もってしまうこと。
リンダさんの問題も具体的な情報に言及がある方、つまりフェミニストである方の確率が高いと誤認してしまうし、ingの問題でもAはBに包括されているのにBの情報だけだと思いつきにくいというだけでAの方が多いと誤認してしまいましたね。
そうね。例えばSNSでたくさん更新をしている人は情報量が多いから、あったことがなくても人物像をイメージしやすいけどその人物像ってあんまり当たってないことが多いんじゃない?
確かに!その人のことを知っているつもりになっても、会って話してみたら全然違ったっていうのは情報が少ない人よりも情報をより多く発信している人で起こるような気がします。
宝くじで当たる人の話ばかり聞いているとこんなにみんな当たるなら自分も当たるんじゃないか?と思ってしまうのもそうね。その話を知っていようがいまいが当たる確率は変わらないのに、なんとなくそう感じてしまうわ。
ゲームセンターで高額商品を獲得している人の写真がたくさんあるのもそういう誤認を誘導するためかもしれないわね。「こんなにみんな当たってるなら自分も当たるかもしれない」って。
サンクコスト効果
休みの日
うううああ、ゲーセンでもう1万円使ったのにDSが取れない…
くそうこうなったら残りの2万円全部使ってでも取るぞ
ちょっと待ちなさい。そんなことにお金を費やして、この間の会話は何だったというの?
冷静になりなさいな。その2万円でDSを買えばおつりがくるじゃない
でももう1万円も使っちゃったんですよ!ここで引き下がったらもったいない!
でたわ、もったいない。そのもったいないこそがサンクコスト効果の正体よ
Sunk cost 埋没費用ということね。あなたが使った100枚の100円硬貨、1万円は既にサンクコスト。つまり沈んでしまってもうどうやったって取り返しはつかない費用よね。
だから本当はその1万円のことは度外視して考えるべきよ。でもあなたはその1万円に対するもったいないという気持ちに引っ張られていらぬ出費をしようとしているわ。
そもそも初めは1000円くらいで取れたらラッキーなんて思っていたはずよ。でも「ああ、1000円がもったいないから2000円まで」「2000円がもったいないから5000円まで頑張ろうなんて」言ってとうとう1万円に達した訳ね。
そのうえであなたが原価1万5000円ほどのDSをあと2万円費やしてでも欲しいというのなら、その諭吉さん2人を全部100円玉にするだなんてバカなことしないで、おとなしく電器屋にでも行って「DSください」って言った方が利口だわ。
余ったおつりでソフトも買えるかもね。
うううう、確かに。だけど後100円で取れる可能性だって
ゲーセンの機械の多くは確率機で特定の額以上を入れないと取れないようにしてあることもある。その額がDSの本体価格より安くしてあるとは思えないでしょう?
で、でもその前にたくさん金を使ってるやつがいれば僕が当たることも
まぁそこまで言うなら続ければいいわ…中古でもいいなら10000円切ることもあるからあなたは既に大損をしているといってもいいんだけれどね
ところであなたは恋愛でも似たようなことをしているでしょう
一度好きになって2年も片思いしたんだからあきらめられない。もう好きじゃないのにもう3年も付き合ったんだからとずるずる関係を続けたり、その人と幸せになれないと分かっていてもずるずると言いなりになったり…
わああもうやめてくれ!買います、店でDS買うから!
タッタッタッタ!
ふふふ、恋愛におけるサンクコストは時間であることも多いようね
いかがでしょうか?様々な問題や事例の中で、実は人間の行動は従来の経済学に当てはまるほど合理的ではないことが分かるかと思います。なんとなく解説してみましたが、また需要があれば他の用語も解説したいと思います。
おわり。
真壁 昭夫
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