当事者なのに性別適合手術(SRS)への公的保険適用を素直に喜べない理由

はい、どもです。タイトルのことについてここ15時間くらいぐるぐる考えています。

先日の記事で「え?そこまでしてくれんの?」っていう気持ちが何より大きいってことを書きました。

幾多の困難を乗り越えてここまでことを進めてくれた人々には本当に畏敬の念を抱いておりますし、感謝の気持ちでいっぱいです。
僕が本当に手術をするにしてもしないにしても、こういう流れになったこと自体は喜ばしいことだと思っています。

これ自体は本音です。すごいことだと思う。でも「なぜもっと素直に喜べないんだろう?」と考えていたんですよ。なんかどうも引っかかるんだ。

そんな中でSRS済みの友人からメッセージが来ました。

 

友人
いや、ほんとびっくりだよ
SRSに保険適用なんて。
それよか、子供のこととか不妊治療とか、がんの治療とか
もっともっと受け皿を必要とする部分を、外堀を埋めてほしいと思ってしまったよね。

 

これや!僕がモヤモヤしてたのここや!!

 

昨日のコレの後ぐるぐるぐるぐる考えたことをまとめました。

手術へのハードルが下がる

まず手術そのものへのハードルが下がること。いや手術のハードルを下げるためにやってるんだから当たり前やないかって話ですが、ハードルが下がったために自分の頭で何も考えずに安易に手術を受けるおバカさんを量産するんじゃないの?っていうことですね。

乱暴な言い方をすれば何も考えない奴は世の中がどうあろうと何も考えないので、あまりこの点は気にしてなかったんですよ。「診断書を1日でもらう方法」みたいなサイトもありましたし、きちんとカウンセリングをせずに診断書を手っ取り早く手に入れて注射したい人もいるわけです。僕のブログにも「FTM 診断書 1日で」で入ってくる人もいました。あーあ、おバカさん。

実際に診断書がなくても15分くらいの軽い当日カウンセリング、というよりホルモン注射の説明でいきなり注射をしてくれるクリニックもあるんですよ。美容クリニックですね。3,4年前にネットで知り合った人の付き添いで行ったんですよね。今もやってるかはわかりませんが福岡にありました。

もちろんSRSは診断書がないとできないですから、ガイドラインに則った治療でないと当然公的保険は適用されません。ただ、負担が減るのは確かに安易に治療を進める動機にはなるでしょう。より一層慎重なカウンセリングを行うようにすべきです

 

トランスジェンダーの搾取

というのも僕自身が2回目の診断書をもらうとき、びっくりするくらいとんとん拍子で話が進んだんですね

1回目のカウンセリングは時間がかかりました。大学最後の年に鹿児島の病院に通っていたので、北九州~鹿児島の往復で時間がかかったというのもありますが、カウンセリング自体がとても丁寧でした。

まずは初診で簡単にお話、その後はロールシャッハ等で精神疾患を否定するための検査、次に大学病院で性別に係る身体的な異常がないか検査、またカウンセリング数回、という感じですね。半年くらいだったと思います。正直早よ終わらんかなーとは思ってましたよ。でも先生と話すのは楽しかったです。

 

2回目は北九州の病院でした。もちろん精神鑑定や身体検査がない分1回目より早いのは当然なんですが、僕はたぶん2件目は2回しか病院に行ってないんですよね。

初診で問診票に記入します。問診票はA4で3,4枚あり「小学生の頃のことについて書いてください」など、生い立ちについて書くスタイルでした。そしてそれを先生に見せたら「うん、君のを読ませてもらったけど、君は自分のことや将来のこともちゃんと考えているね。次はA4用紙1枚で自分史書いてきてね」と言われて1回目が終了。

え?そりゃまぁそれなりに考えてますけど、え?そんなんで良いわけ?

 

そして次で自分史提出。

「うん、大丈夫だね。じゃあ治療考えてるなら福岡の〇〇クリニックってとこがあって…」

ちょちょちょちょっと待て。何が大丈夫なんだ。

 

「治療は考えてますが、少なくとも今は子宮卵巣の摘出をするつもりはないです。僕は将来やりたいこともあるんで長生きしたいです」

「でもそれだと戸籍は変えられないよ」

「(知っとるわ!)戸籍や法律のためだけに治療するのはおかしいと思うので

「そうだねぇ、でもそうは言っても日本の法律なんてそうそう変わらないよ。ホルモン治療は?」

「ホルモン治療ははじめるつもりです」

「ここではホルモン治療もできるよ」

「北九州でも泌尿器科とかでできますよね?診断書があれば」

「でもこういうのはちゃんと血液検査とかもやった方が良いよ。ジェンダークリニックの方がちゃんとしてるからそっちに通った方が良い」

 

僕はいろいろと腑に落ちない点もありましたが、確かに専門でやっているところの方が安心感はあると思い福岡のクリニックに行きました。

そして福岡のクリニックでももういきなりSRSの話でした。

 

「手術は受けるの?」

「まぁ考えてはいますけど…今すぐではないですね。学生ですから。それに日本ではやらないと思います。費用も掛かりますし」

「でも日本の方が安心だと思うよ。うちの病院だとこういうパッケージがあって…」

 

…あー、分かった。なんで2回目の診断がすぐに終わったのか。

北九州のメンタルクリニックはこのジェンダークリニックから紹介料でももらってるんだろう。ジェンダークリニックは診断書2枚持った治療可能の当事者が来たらすぐに治療できるし、将来的にそこで手術を受けさせることも可能だから利益に繋がる。まさにWin-Winじゃないか。

 

そう考えると鹿児島のクリニックの先生は本当の意味で良心的だった。おじいちゃん先生だった。彼はこう言っていた。

「最近ねぇ、早く診断書出せ出せっていう人も多いんだよ。そんな焦って結論出したってねぇ。」

 

だからよね!!!!(鹿児島弁の同意)

 

確かに事実上診断書=治療のための切符になってるところはある。でも本来はそうじゃないでしょう。

こんなことを体験した身としては、本当に僕らのことを考えてくれている鹿児島のおじいちゃん先生のような先生が減って、安易に診断書を出して治療と手術のパッケージを提供していくようなやり方が増える気がしてなりません。そして何も考えていないおバカさんはLGBTビジネスのいいカモってわけだ

そんなヤツは勝手に搾取されてろって気もしなくもないですが、少なくとももっと若い人には悪影響なので悪い手本にならないでほしい

手術すれば幸せになれるという誤解の広がり

これは当事者もですが、非当事者の認識の話です。

手術のハードルが下がって手術をする人数が増えれば増えるほど「今は保険もきくんでしょ?じゃああなたも手術すればいいじゃない」という誤認は広がりかねないでしょう。

以前にも書きましたが、生殖機能を失わなければ戸籍上の性別は変えられません。

戸籍上の性別変更というのは現状、堂々と生活するための最も手っ取り早い方法ではありますから、ここを目指す当事者は少なくありません。

僕は自分が男としてとか女としてとか以前に、生きてやりたいことがたくさんあるから健康のリスクも天秤にかけるわけです。ただ、パートナーと夫婦であることを認められたい、戸籍まで変えた方が自分も周りにもメリットが多いから手術をするという人だっている。それはその人の環境と価値観です。

どっちをとるかは自分でよく検討して決めることなんですよ。だから短絡的に、手術=ハッピーっていう認知が広がるのは避けたい

他にも公的保険を適用させるべきところがある

これは今回僕が一番「それな!!!!!」と思った点ですね。

SRSは上記のように法律上の手続きに係るものだから公的保険が適用されるようになったんだと思うのですが、それでもやっぱりね、性別適合手術なんて美容整形みたいなもんだと僕は思うのよ。

結局のところ他者から別の性別で認識されたいから治療をして手術をする。精神的苦痛から解放される。

他者からの認知を変えたい、今のままじゃ苦しいからもっとこうありたい。それってやっぱり美容整形と同じじゃんね。

 

それよりは友人も言ってましたが不妊治療とか、癌治療の公的保険でカバーできてない部分のカバーとかさ、もっとみんなの税金を使うべき対象は違うところなんじゃないかと思うんですね。少子化少子化言ってんだから不妊治療をカバーしろよとはマジで思う

こちらは癌治療にかかる費用の内訳。こう見ると自己負担分はかなり多いです。

治療にかかる費用について より引用

まとめ

LGBTの話って①存在が身近②”タブー”の普遍化③LGBT,虹色といった分かりやすい言葉やシンボルの登場っていう、全体的な「ハデさ」があったから半ばお祭り騒ぎ的に加速したところがあると思うんですよ。

この制度自体は進歩だし、本当に苦しい思いを射ている人に届いたら素晴らしい制度だと思うんですね。先にも書いた通り、ここまで話を進めてきた人たちには当事者としては感謝もしてます。

でも、これっていろんなことを置いておいてするべきことだったんだろうか?もっと有効に税金を使う方法もあるんじゃないだろうか?そう思わざるを得ないですね。

はああああ考えるってムズカシイねー。

おわり。

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